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奈良は清酒発祥の地。クラフトビールの歴史はまだまだ浅いですが、こと日本酒に関しては数千年の歴史があります。奈良醸造では、そんな歴史ある酒蔵のひとつである奈良県御所市の酒蔵・油長酒造とコラボし、「UNDERWATER」という新しい形のお酒を作る試みを行ってきました。
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今回、油長酒造「風の森」の醸造責任者である中川さんと、奈良醸造の醸造責任者である浪岡が、日本酒とビールの違いや、今後の新しいお酒造りについて話しました。その内容を、2回にわたりお届けします。
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事の始まりは、油長酒造の社長・13代山本長兵衛さんから届いた一本の電話。
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「うちの醸造責任者に、奈良醸造のビール造りをイチから教えてやってくれへん?」
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酒造りが少し落ち着いたタイミングで、奈良醸造へインターンを派遣したいという相談でした。私たちも油長酒造の方に色々お伺いできるチャンス!ということで、2ヵ月間、油長酒造から「風の森」醸造責任者である中川悠奈さんにインターンに来ていただいていました。中川さんには、ビールづくりの一連の流れとして、日々の醸造作業はもちろん、イベントの出店やタップルームでの営業まで、ビールにまつわる本当に様々なことを経験いただきました。
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今回、そんな2ヵ月のインターンを終えた中川さんに、改めてお話を伺う機会をいただきました。中川さんのお仕事の話から、インターンの感想、今後の酒造りのことまで、色んなことをお聞きしたいと思います。
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ー油長酒造ではこれまでどのようなお仕事をされていたのですか?改めて教えてください。
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中川「油長酒造は新卒入社でした。当時、新卒募集をしている酒蔵が少なかったので、ひとつひとつ電話して酒蔵を訪れていましたね。油長酒造の、長い歴史を受け継ぎながら最新の技術を積極的に取り入れて酒造りをしているところに惹かれて働きたいと思いました。私は入社してまず、麹づくり担当になりました。1年目はタンクや備品の洗浄だけという酒蔵もありますが、油長酒造は入ってすぐに何かのポジションを任されます。現在は『風の森』の醸造責任者として、仕込みの計画や配合を考えたり、社長やみんなの意見を取り入れながら酒造りの行程全般の進行管理を行っています」
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ーコラボレーションした「UNDERWATER」のテイスティングにも立ち会ってくださっていましたよね。
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中川「『UNDERWATER』は今年で3回目のリリースとなりますが、毎年ブラッシュアップされていて新しい発見があります。『風の森』で使用している7号酵母を使っていただいていますが、自分たちの醸造している酵母の新たなポテンシャルが引き出されていて感動しました。元々奈良醸造のファンである自分としては、『UNDERWATER』は単純に飲み手として毎回楽しみにお待ちしています(笑)」
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ー奈良醸造のインターンでは実際に日々どのような業務がありましたか?
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浪岡「奈良醸造という会社がどうやって動いているのかイチから教えてもらいたいということだったので、未経験で醸造所に来られるアシスタントブルワーと同じように、細かく作業について見ていただきました。ちょうど『SOUR MILK SEA』を仕込みから販売まで一連の流れを見てもらえましたよね」
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中川「はい。来たときに仕込みが始まって、先日タップルームに立って『SOUR MILK SEA』を販売したので、本当に一通りビールを作って売るまでを体験しましたね。日本酒は瓶で出荷しているので、ビールの缶詰や樽詰は初めての経験でした。機械や道具もどれも触ったことのないもので、学びが多かったです」
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浪岡「ビールと日本酒の大きな違いのひとつは炭酸があるかどうかだと思います。機械も違えば、向き合い方も違うので、機械の使い方や炭酸等の扱い方をはじめ、ビールづくり全体の作業において、なぜこうするのかという裏側の背景やロジックなども含めてお伝えしました」
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ービールづくりをイチから並走頂きましたが、特に印象に残ったことはありますか?
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中川「まず徹底された衛生管理に驚きましたね。私たちが造っている『風の森』も基本的に加熱処理を行っていない生酒の為、特に衛生管理に気をつけていますが、アルコール度数が低いビールづくりでは更に徹底されていると感じました。奈良醸造は道具の洗浄、殺菌方法に指標を決めて行われており、スタッフ全員がその意識をしっかりと共有されているところが非常に参考になりました。
醸造の面では、それぞれの発酵形式での違いによる発酵管理の考えの違いが印象的でした。ビールは糖化と発酵のタンクが別タンクで行われるのに対して、日本酒は同一のタンクで同時に行われるため、糖化と発酵の具合が分かりにくい複雑な形式になっています。
発酵管理を航海に例えると、ビールは目的地である酒質へと明確な指針を持ち、進行方向や速度を見ながら合理的に航海するのに対して、日本酒は、天体や日々の風向き、波の動きなどを総合的に判断し、その場に応じた船のかじ取りをして目的地へと航海するイメージです。日本酒は予測できない糖化や発酵の動きを逐一確認して進めているので、初めから綿密な計画表を持っているビールづくりは新鮮でした」
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浪岡「日本酒は歴史の深さを活かして、長年の経験則に基づいて作られているイメージがあります。ビールの歴史も深いですが、クラフトビールというとまだ浅いので、数値やロジックに頼る部分が多いのではと思います。クラフトビールは地ビールとも言われますが、日本酒こそ、それぞれの土地に紐づく経験で作られる地酒という感じがしますよね」
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日本酒とはまた違ったビールづくりについて様々な発見をした中川さん。次回は、その発見を日本酒づくりに活かせるか、今後の油長酒造の取り組みにも交えてお聞きします。
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現在、油長酒造とコラボレーションした「UNDERWATER」は数量限定で奈良醸造オンラインストアとタップルームで販売中。年々アップデートを重ねていくこちらのコラボ、今年の「UNDERWATER」を飲めるのは今年だけ。ぜひお試しください!