5周年という節目の年を迎えた奈良醸造、どうにかこうにか無事に駆け抜けることができ、ほっと一息ついたところ。この1年を振り返りながらこの文章を書くことができる喜びをしみじみと噛み締めているところです。
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年初に宣言したのは『定番はしっかりと造り、限定ビールはより自由に造る』。
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この取り組みがどれぐらい達成できたのか、ここで自己採点をするのもいいのですが、それが皆さんにどれほど届いたのかは計り知ることができません。そこはみなさんに委ねたいと思います。
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『より自由に造る』と宣言自由な発想というのは、一定の制約があればこそ産まれてくる、という逆説的なことが実感できた1年でした。それはつまり、ビールとは何か?ビールの可能性はどこまで拡張できるのか?を問い続ける1年であったとも言えます。
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豊かな副原料に目を向けて挑戦したSOUR MILK SEAやカクテルにインスパイアされたMACGUFFIN。酸の質を一旦分解して再構成したROSE BUDなどはなかでも実験的なビールに入るでしょう。
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一方で、クラシックなスタイルへの挑戦もした1年でした。
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初のラガーとなったMALKOや、日本ではまだまだ馴染みの薄いスコッチエールに挑戦したNOTHING SPECIAL。これらはコラボという名のもとに背中を押してもらうことで完成したビールたちです。
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またリミックスシリーズとして、これまでに造ったIPAのレシピを2023年の知識とスキルで再構築する試みを5回に分けて様々なアプローチで表現しました。この挑戦の中で感じたことは、5年前と今とでは、自身も世の中も、少し軸が動いているということ。ビールの味わいやスタイルのトレンドもあれば、クラフトビールそのものの立ち位置も変わってきています。今を意識してレシピを書く作業を通じてそんなことに気付かされるほどに、駆け抜けてきた5年という時間は長く厚みのある時間となっていました。
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5年前、「奈良で一番新しい醸造所です!」と言っていた僕たちも気がつけば、新人枠ではなくなっているではないですか。落ち着きが足りないかもしれませんが、ビールを造れば造るほどやりたいことがその先に見えてくるので、まだしばらくの間この状態を楽しんでいきたいと思います。そして願わくばビールを手にとってくださった皆さんとも、この楽しみが共有できれば。
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今年に造ったビールの量って、いったい何パイントになるんだろうか?ふと思い立って換算してみたところ、想像をはるかに超える数字となりました。ビールを手にとっていただいた皆さんに改めてお礼を申し上げて、今年最後のご挨拶とさせていただきます。
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発酵タンクでは年の瀬に仕込んだビールが静かに発酵を続けています。酵母には働き続けてもらいながら、僕たちは来年に向けてしばし充電の時間を取ることにします。
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それではみなさん、良いお年を。