ALE & BOOKS & CIDER ー ビールと本のペアリング
.
読書に合うビールを提案する「ALE&BOOKS&CIDER」企画。奈良醸造の新作「kabel(カベル)」を飲みながら読みたい本を様々な方にを選書いただきました。今回は、奈良県大和郡山市の商店街の奥にある独立書店・とほん( @tohontohon ) の店主である砂川さんの選書です。とほんには思わずつい買ってしまいたくなる本がずらり。ぜひ奈良に来た際は足を運んでみてください。ちなみに今回ご紹介いただく本も、とほんで販売中です!
.
『帰れない探偵』
著者:柴崎友香
出版:講談社
.
.
最近は年のせいか、お酒を飲むとすぐ眠くなってしまう。けれど若い頃は飲み過ぎることも多く、居酒屋から家まで帰ってきた記憶がないことが何度かあった。記憶をたどっても、どうやって帰ってきたのか思い出せないまま、自分の布団で目覚める。不思議な感覚ではあるが、人には帰巣本能があるのだろうと、深く考えずに納得していた。
今回紹介する本は、タイトルの通り“帰る場所”にたどり着けない探偵が主人公の物語だ。新しく事務所を構えて探偵の仕事を始めたところ、その事務所へ向かう道がなぜか見つからなくなってしまう。帰る場所を見失った主人公は、各地を転々としながら依頼を請け負う、流浪の探偵生活を余儀なくされる。
本書は連作短編集の構成で、ひとつの短編でひとつの事件を解決していく。短編ごとに依頼された事件を解き明かす探偵小説としての読み応えは十分にある。けれども、主人公の“帰る場所”問題だけは、いっこうに解決しない。さらには祖国が鎖国のような体制になっており、帰国すらできない状況であることが明らかになり、物語の先行きはどんどん見えなくなっていく。
進めるうちに、「帰る場所」とはいったい何なのかを深く考えさせられた。現在のわたしには、妻と子どもと暮らす家が、間違いなく帰る場所だと言える。だが、もし独身で職場を転々とする人生を歩んでいたとしたら、わたしの帰る場所はどこになるのだろう。そもそも、わたしの人生も迷わずまっすぐ歩き続けてここにたどり着いたわけではない。帰れなくなったからこそたどり着けた場所があり、迷い歩いたからこそ出会えたものがある。本書の主人公が最後に手にしたものの意味に想いを巡らせつつ、あの頃のように、記憶をなくすほど飲んでみたくなった。

.
Selected by 砂川昌広(Masahiro Sunagawa)|本屋とほん店主
奈良県大和郡山市にある本屋とほん店主。大切に持っていたくなる本、長く読み続けたくなる本、読んで良かったと思える本を揃えています。
.
ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。
.
.
他の選書を見る








