ALE & BOOKS & CIDER ー ビールと本のペアリング
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読書に合うビールを提案する「ALE&BOOKS&CIDER」企画。奈良醸造の新作「BIFUR(ビフュール)」を飲みながら読みたい本を様々な方にを選書いただきました。今回は、奈良県大和郡山市にある書店・とほんの店主である砂川さんより。奈良醸造のタップルームでも、11月2日(土)からとほんさんに選んで頂いた本を数冊販売します。ぜひ、ビールと読書のペアリングを楽しみにお越しください。
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『宇治拾遺物語』
現代語訳:町田 康
出版:河出書房新社
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ビールは楽しい気持ちで飲みたい。そう思うみなさまに町田康が現代語訳をした『宇治拾遺物語』(現代語訳:町田康/河出文庫)をおすすめいたします。
『宇治拾遺物語』は鎌倉時代に成立し、江戸時代に出版された15巻本がベストセラーとなった説話集。その全197話から本書は滑稽談や猥雑なものなど厳選した33話が選ばれ現代語に訳されています。有名な話もいくつか収録されており、「鼻がムチャクチャ長いお坊さん」は芥川龍之介『鼻』の元ネタと言われています。奈良の長谷寺が舞台となる「長谷寺に籠った男が利得を得た」は「わらしべ長者」のお話しです。
もっともポピュラーな「こぶとりじいさん」の物語での、町田康訳を引用します。
” ことにリーダーの鬼が気に入った様子で、鬼は進み出てお爺さんと頭のうえで手を打ち合わせ、その小さな躰を抱きしめてから、お爺さんの手を取り、その瞳を見つめて言った。 「長いこと踊り見てきたけど、こんな、いい踊り初めてだよ。次にやるときも絶対、来てよね」”
(本書収録「奇怪な鬼に瘤を除去される」P23より引用)
突然踊り始めたひとりめのおじいさんに対する鬼のリアクションはこんな感じです。わたしが知っている「こぶとりじいさん」と大筋は一緒なのですが、ニュアンスが大きく変化していて「そんな話やったっけ!?」という荒唐無稽な情景に。町田康による現代語訳が宇治拾遺物語の世界と一体化して、独特の笑いの世界が繰り広げられていきます。
本書を読んでいると何度も登場する「マジですか」というフレーズが印象に残ります。ありえない展開や状況に驚愕をおぼえ疑問を差しはさみながらも、その状況に否応なく向き合う人たちが、さまざまな場面で口にする「マジですか」。読者は笑ってしまうところでも、登場人物たちの誰もが本気(マジ)だからこそ、そこに人間味があふれだし、面白くも愛すべき物語が広がっていきます。
これまでも町田康の小説を読んできましたが、独特の風味があると思っています。ビールを飲む楽しさを他のアルコールで補えないように、町田康から取れる栄養素は町田康からしか味わえません。美味しいビールとともに、古来から愛された説話を絶妙に語り直す町田康の世界をぜひお楽しみください。
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Selected by 砂川昌広(Masahiro Sunagawa)|本屋とほん店主
奈良県大和郡山市にある本屋とほん店主。大切に持っていたくなる本、長く読み続けたくなる本、読んで良かったと思える本を揃えています。
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