ALE & BOOKS & CIDER ー ビールと本のペアリング
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読書に合うビールを提案する「ALE&BOOKS&CIDER」企画。奈良醸造の新作「BIFUR(ビフュール)」を飲みながら読みたい本を様々な方にを選書いただきました。これから少しずつ、おすすめの選書を投稿していきたいと思います。最初の選書は、奈良醸造・醸造責任者の浪岡より。ぜひみなさんも、「#よみものとのみもの」のハッシュタグで、ビールに合う本を教えてください!
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『デイリーマンのご馳走 ユーラシアにまだ見ぬ乳製品を求めて』
著者:平田 昌弘
出版:北海道協同組合通信社
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旅が好きだ。
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自分の日常とすこし違う日常、それは僕にとっては非日常だけど、そこで暮らしを営む人にとってはあたりまえの暮らし、それを垣間見るのは、紀元前の古代遺跡を探訪するのと同じぐらい楽しく僕にとっての旅の醍醐味のひとつで、自分の日常からの飛距離があるほどに旅は俄然多面的になる。
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そんなこともあって、僕は旅先でマーケット(国によってその呼び方は変わるけど、とりあえずここではそう呼ぶことにする)に足を運ぶことが多いのだが、興味本位で足を踏み入れた異邦人は時として面白がって話しかけられることもあれば、どうしていいのかわからずにお互いに照れ笑いをすることもある。言葉が通じないこともお構いなしにしきりに何かを勧めてくる人もいれば、淡々と接してくれる人もいるし、その距離感は千差万別。湿度や匂い、喧騒といったその場の空気感がたまらなくて、観光そっちのけで端まで歩いては折り返し何度も行ったり来たりしていることがある。
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マーケットの中でも僕にとって特に面白いのは食材を扱っているエリア。食べるということは生きていくことであり、その風土とは不可分なもの。それこそカルチャーがそこにむき出しのかたちで並んでいて、実際にそれらを舌で体験し、自分の体内に取り込むのは体験、経験のもう少し先まで踏み込んだ気持ちになる。
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今回紹介する「デーリィマンのご馳走」はユーラシア各地の牧畜と乳文化のフィールド調査を続ける著者による労作。西はヨーロッパから中近東、南インドからチベット、モンゴルまでそれぞれの気候風土に根付いた固有の乳製品やその加工技術が、著者の手による写真を交えて丹念に紹介されていて、それはマーケットよりもさらに奥深く踏み込んだときに見える世界が切り取られている。
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自分が短い時間では踏み込めない領域にまで立ち入ったうえで書かれたこの本は、やはりフィールドワークのなせるもの。ビールを含むお酒という発酵文化がもともとその風土から生まれたように、乳文化の多様性も、それと同じぐらい、もしかしたらそれ以上の拡がりのある世界であることをこの本は教えてくれる。
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と同時に、とても旅に出たくなる気にさせる本だ。
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醸造所をはじめてから、なかなか旅と呼べる行為ができなくなってしまったけど、この本を読んで、また行きたい場所が増えてしまった。こういった国にはスーツケースを引きずって行くよりも、バックパックがよく似合う気がする。久しぶりに押入れから引っ張り出して、とりあえずいつでも出かけられるように干しておこう。
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乳文化と醸造酒が交差するところとして、まずは馬乳酒で乾杯をしたい、というのが目下の目標だ。
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Selected by 浪岡安則(Yasunori Namioka)| 奈良醸造・醸造責任者
奈良でビールを造ったり、小難しいことを考えたり、ビールを造ったりしています。
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ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。
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