ルビーにも似た深い赤が印象的な「PURPLE TOWN」。カシスを使ったフルーツサワーエールとしてご好評いただいていますが、実はカシスだけではなく、ジンにも使われるジュニパーベリーと、隠し味にスターアニスを潜ませています。
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では、なぜカシスとジュニパーベリー、スターアニスを組み合わせたのか?今回はその背景についてのお話。
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一見突拍子もないように見えるこれらの組み合わせは、単なる思いつきや勘ではなく、近年料理界で注目されている食品化学の理論に基づいて構成をしたもの。従来の料理法では、シェフの経験から得た「味の記憶」を頼りに食材を組み合わせてきましたが、このアプローチには使い慣れて安心できる食材の組み合わせになりがちという課題がありました。そこで注目されているのが、食材が持つ風味を科学的に分析し、革新的な組み合わせを見つけ出すアプローチです。
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風味とは「香り」と「味」から成り立っていますが、実は「香り」が最も大きな影響を持っています。例えば、鼻をつまんでコーヒーを飲んでみてください。きっと、苦いお湯のように感じるはず。実は、風味の80%は「香り」によるものだと言われており、「味」はわずか20%しか占めていないのです。そしてこの「香り」は何千もの芳香化合物から成り立っており、その組み合わせが風味を決定づける重要なポイントになります。
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料理界の理論である「フレーバー・ペアリング・セオリー」によると、共通する芳香化合物を一定以上の量あるいは濃度で含んでいる食材を組み合わせると、香りがより引き立ち、風味が一層豊かになることが分かっています。この理論に基づき、カシスを使ったビールに奥行きを与える素材を考えたところ、ジュニパーベリー、スターアニスという2つの副原料を組み合わせることが風味を最大限に引き立てられるのではないかという結論にたどり着きました。
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立ち上がる香りは、カシスだけではなく、ジュニパーベリーとスターアニスが重なった多層的な香り。口に含めば、カシスと酵母の酸味が混然一体となった甘酢っぱさが広がります。飲んだあとの清涼感はジュニパーベリーとスターアニスによるもの。この清涼感が次の一口へと誘うことでしょう。さらに温度が上がると、カシスの香りが開き、グラスのなかでおきる変化を楽しんでいただけます。
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そんな背景を頭の片隅に置いて、このビールを味わっていただけたら嬉しいです。