ALE & BOOKS 「ビールと読書」
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今回は、フラヌール書店 店主 久禮亮太さん
に寄稿いただきました。
BODONIを開けた瞬間まず感じたのは高級なバゲットのような香りと味わいで、しかし爽やかな軽さもあり、いくらでも飲んでしまえる気がしました。その美味しさのあまり、このジャーマン・エールができるまでに連綿と続いてきた壮大なビールの歴史と職人たちの物語へと、私の心は想像の旅に出てしまいました。というのも、いつか読んだ小説を思い出したから。
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ビールは中世ヨーロッパでは「飲むパン」と呼ばれたといいます。キリスト教徒、とりわけ修道士たちは、断食の期間中であっても飲むことは許されていて、ひとりあたり数リットルもの量を毎日のように飲んだとか。ビールは人々が生きていく上で不可欠な食糧であり、聖職者を虜にし、ときには大国の政治を左右するほど魅惑的な嗜好品でもあったようです。
そんな中世のビールをめぐる歴史と日常をタイムトラベルで見てきたかのようにありありと体験できるミステリ大河ドラマ小説、『ビア・マーグス ビールに魅せられた修道士』をご紹介します。
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13世紀半ばのドイツに貧しい農家の息子として生まれたニクラスはビール作りを志ざし、やがて当代随一の醸造家となり「ビア・マーグス(ビールの魔術師)」と呼ばれるまでに。そして数々の醸造技法を遺して生涯を終えます。幼少期からのライバルにつけ狙われ、天災や事件に翻弄されながら進んでいく彼の生涯を私たちもハラハラしながら追いかけていくうちに、ビールと中世ヨーロッパの歴史に詳しくなってしまう、そんな一冊です。
彼を翻弄する運命は中世ドイツにおける教会や都市をめぐる政治情勢や大事件、そこでビールが果たした役割といった史実に基づきます。ヴァイエンシュテファン、ザンクト・ガレンといった修道院をはじめ、ビール史に重要な場所や人物が物語の各所に散りばめられ、物語と現実が重層的に進んでいきます。
ニクラスは職人として成長するなかで、パン種を煮込むグルートビールに始まり、薬草のビール、現代的なホップ入りビールへと、挑戦の幅を広げていきます。そこに描かれる技法やレシピ、設備の進化もまたリアリティに溢れていて、読み終える頃には醸造にもすっかり詳しくなっているはず。
著者自身もビール醸造家であり、訳者もドイツの食に詳しくビアソムリエでもあるという本書は、細部まで緻密にビールの世界を描き出してくれます。
物語に夢中になっているうちにビールが少しぬるくなっても、BODONIなら、それもまた美味しくゆっくり飲めるのではないでしょうか。
『ビア・マーグス ビールに魅せられた修道士』
著者/ギュンター・テメス
翻訳:森本智子 遠山明子
出版/サウザンブックス社
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久禮亮太 フラヌール書店 店主
書店アドバイザー、ブックコーディネーターとして活動するかたわら、カフェや洋服店に出張して開く本屋、フラヌール書店を営んでいます。ビアバーLezzet Craftbeer & Food Experience Barを営む妹と「ビールと本のマリアージュ」について相談中。ただいま東京都品川区で書店開業準備しています。
Twitter: @flaneur_books
Instagram: @flaneur_bookstore
ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。