ALE & BOOKS 「ビールと読書」
.
今回は、茅ヶ崎にてビール醸造所を準備中の
Passific Brewing 大庭 陸さん
に寄稿いただきました。
「海を越え、山を越え、ビールと旅するブルワリー」をコンセプトに2021年今夏より茅ヶ崎にてビール醸造を開始するPassific Brewingの大庭 陸です。
.
今回紹介させていただく本は角幡唯介著の「新・冒険論」です。
.
冒険家である角幡唯介氏が現代における「冒険」を「脱システム」というキーワードと共に論ずる本です。
.
「現在冒険と称されている活動は単なるアウトドア活動に毛が生えただけのものか、野外フィールドで肉体の優劣を競うだけの体力自慢による擬似冒険的スポーツがほとんどである。要するにほかの誰かがやったことの後追いばかりが幅を利かせており、三原山計画のような独自の哲学と豊かな発想にもとづいた創造性のある行為は全くみられなくなってしまったのだ。」
.
無酸素でエベレストに登ったり、北極点に向けて犬橇を引いたりといった行為は我々一般人からすると大冒険のようですが、それらは誰かによってすでに成し遂げられた行為であり真の冒険としての価値はない。
では、未踏峰の山や地理的な空白部が存在しない現代において真の意味での冒険をすることは不可能なのか?という疑問に対し、本書では「冒険」=「脱システム」とし、目に見えないシステムを見極めそれらの外側にでることが現代に残された冒険なのではないか、という切り口で冒険を再定義していきます。
.
さて、前置きが長くなりましたが「冒険」と「クラフトビール」とても似ていませんか?
.
ビアスタイルガイドラインという名の地図には空白部などもはやほとんど存在しなく、ありとあらゆる原材料の組み合わせや、誰がどれだけ大量のホップを使ってビールを作れるか、などを競うことに夢中になり、冒頭にも紹介したような「独自の哲学と豊かな発想にもとづいた創造性のある行為は全くみられなくなってしまった」のではないかと思うのです。
.
再び本書の内容に戻りますが、非常に脱システム的な例として、誰もが登ったことがある山を舞台としつつも限られた装備や、食料を極力現地調達するといった”古いようで新しい登山”が紹介されています。
.
「FUTURA」も一見すると派手さはなく流行とも正反対に位置するような、エベレスト登山に対する、里山散歩のようなビールですが、今回のALE & BOOKS「ビールと読書」という企画も含めて”古いようで新しい”ビールであり、混沌としたクラフトビールの世界における脱システム的な一例なのではないかと思わずにはいられないのです。
.
「新・冒険論」
著者/角幡唯介
出版/インターナショナル新書
.
Passific Brewing
△海を越え山を越え、ビールと旅するブルワリー
△2021年夏、茅ヶ崎を拠点にビールの製造開始予定!
https://www.instagram.com/passificbrewing/
ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。