ALE & BOOKS 「ビールと読書」
今回、地元奈良は大和郡山市の書店
とほん店主 砂川昌広さん
に寄稿いただきました。
『宝島』
著者/スティーヴンスン
翻訳:海保眞夫
出版/岩波少年文庫
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児童文学にあまり触れてこなかったなと、2021年から気になるタイトルをいくつか読んでいます。『モモ』や『ゲド戦記』の息もつかせぬストーリー展開に唸り、『ハイジ』が実はおじいさんの社会復帰の物語だったことに気づかされ、『ピノッキオ』のあまりの悪ガキさに呆れかえるなど。名作と呼ばれる作品は人物造形や世界観に奥深さがあり、ここまで作り込まれているのかと驚いてばかり。
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先日読み終えたばかりの『宝島』も大人になってから読むことで気づかされることの多い物語でした。ストーリーはシンプルで、宝を隠した海賊の地図を偶然手に入れた主人公のジム少年が、村の大人たちと宝探しの船旅にでるが、船員のふりをして乗り込んでいた海賊たちと宝を巡って争うというもの。
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この海賊たちは、とにかくラム酒が好きで隙あらば飲んで酔っ払って失敗します。子ども目線でみると、酒に酔って失敗するダメな大人の典型といったところ。『宝島』では他にも緊迫した場面でお金に目が眩むジムの母親、極秘事項をうっかり話してしまう村の有力者など、大人たちのやらかしがいろいろ出てきます。
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そんななか、ひと際目を引くのは海賊のリーダーであるシルヴァーです。人あたりの良さと巧みな話術によって、ジム少年たちの信頼を得て料理長として乗船。宝島上陸に合わせ反乱を起こしますが、形勢が不利になると、部下を見捨てて主人公たちに寝返ろうと画策する見事な悪党です。
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でも、シルヴァーは利己的な行動で信用できない大人ではあるけれど、味方であるときは頼りがいがあり好印象を残す人物として描かれています。そういえば、本書を書いたスティーヴンスンは二重人格を描いた古典『ジキル博士とハイド氏』の著者でもありました。シルヴァーも「善人のふりをした悪人」「悪人と思いきや善人」といった分かりやすい性格ではなく、「善人」と「悪人」の両面の顔を持つ人間として読者の心を揺さぶってきます。
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人が持つ多面性を考えさせられる『宝島』の物語。お酒に酔ったときに現れるのはその本当の自分なのか、もうひとりの自分なのかという問いも浮かんできたり。ビールを飲みながらあらためて読み直したくなる1冊。児童文学のなかでお酒が印象的に描かれる名作でした。
奈良県大和郡山市の書店
とほん
https://www.to-hon.com/
ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。