ALE & BOOKS 「ビールと読書」
今回、地元奈良は大和郡山市の書店
とほん店主 砂川昌広さん
https://www.to-hon.com/
に寄稿いただきました。
初読の小説に手を出すと酔いが回って物語の筋がわからなくなってしまうので、お酒を飲んでいる時はお気に入りの小説や詩歌集をパラパラと拾い読みすることが多くなります。FUTURAを飲みつつどんな本が合うかな考えたとき、ぱっと思い浮かんだ1冊があり、本棚から取り出し読み返してみました。アフリカ文学の最高傑作と言われる『やし酒飲み』(エイモス・チュツオーラ/岩波文庫)です。
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子供の頃からやし酒を飲んでばかりの主人公。そんな息子をみて父親は専属のやし酒つくりの名人を雇います。おかげで美味しいやし酒を毎日好きなだけ飲んで暮らしていましたが、ある日、その名人があえなく死んでしまいます。美味しいやし酒が飲めなくなって困った主人公は「死者の町」にいると噂されるその名人を探す旅に出る、という物語です。
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町には神や死神が暮らしていて、森では異形の化け物たちが跋扈する超自然的な世界での冒険譚。神と名乗っているのにどう見ても普通の能力のおじさんや身体のパーツをあちこちで借りてきて美形の紳士になりすます骸骨など、シュールな展開や摩訶不思議な設定が頻発。さらに文体は「ですます調」と「だである調」が入り混じっていて、この物語の作者は酔いながら書いたのかと思わせる独特な小説です。
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といってもハチャメチャなだけでなく、この混沌とした味わいが、アフリカが持つ呪術的な風土や文化を色濃く際立たせ、どのエピソードも寓意に満ちた神話のような印象をもたらしてくれます。
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FUTURAを飲みながら読むことで『やし酒飲み』の大きな魅力である混沌とした世界観に、より没入する読書の時間を持つことができました。美味しいやし酒を飲むためだけに人生を費やし命がけの旅を続ける主人公。ちょっとどうかと思う人物像ではありますが、酔えば酔うほど感情移入ができておすすめです。
「やし酒飲み」
著者/エイモス・チュツオーラ
出版/岩波文庫
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奈良県大和郡山市の書店
とほん
https://www.to-hon.com/
ALE & BOOKS 「ビールと読書」とは:
ビールを飲みながらどんな本を読みたいか、いわばビールとフードのペアリングならぬ、ビールと本のペアリングをお伝えできたら面白いのではないか、という提案です。奈良醸造がビールと一緒に読みたい本を紹介したり、どんな本を好きなのか、気になる方々のオススメなどを紹介していきます。