シムコ―ホップの香りを堪能できるSMaSH IPA「AWAKENESS(アウェイクネス)」。このビールは、アシスタントブルワーの小川・金子・佐久間でレシピを造ったデビュー作。ヘッドブルワーの浪岡から3人に与えられたお題は、『IPAを造ってほしい』ということだけ。今回は、ブルワーの皆さんに改めて「AWAKENESS」を造った経緯や感想を尋ねてみました。
ーー浪岡さんはそもそも、今回なぜアシスタントブルワーにレシピを任せようと思ったんですか?
浪岡:これまで奈良醸造で様々なIPAのレシピを書いてきましたが、アシスタントブルワー達にとっても、もっとこうしたい、ああしたい、というイメージがあるのでは?と思ったんです。そこで、今いるアシスタントブルワー全員がある程度一通りの作業ができるようになったこのタイミングで、任せてみることにしました。
ーーアシスタントブルワーの皆さんは、ヘッドブルワーの浪岡さんなしですすめることに不安はありましたか?
金子:僕は元々、自信を持って何かを進めることが苦手なので、最初は正直不安でした‥。
小川:以前浪岡さんとSMaSHについて話したこともあって、レシピを伝えるときがいちばん緊張したかも…NG出されるかなと(笑)。
佐久間:仕込みの当日は「なるべく口を出さないようにする」とのことで、より一層の緊張感をもって取り組みましたね。
金子:仕込んで、発酵して、充填するまで何が起こるかわからないので、自分たちで決めるのはかなり迷うことも多かったです。ただ浪岡さんも100%手放しというわけでもなく、相談したら適宜アドバイスを貰えたので、無事に求める味わいに仕上げることができました。
ーー実際に出来上がったIPAのスタイルは、1種のモルトと1種のホップを使ったSMaSH IPA。非常にシンプルな構成ですが、なぜこのスタイルに?
金子:みんなで話し合ったとき、奈良醸造らしくないIPAを作りたいというところが共通の意見でした。
佐久間:従来のIPAはウィートやカラピルスといったモルトを用いることが多く、ボディがしっかりとしていてやや甘めという印象。それとは違ったすっきりとした路線のIPAを醸造してみたいという意見が一致しました。
金子:飲み口の軽いIPAを作るにあたって、ピルスナーモルト単体で麦汁を取ろうという案が出ましたよね。そこでモルトを1種類にするならホップも1種類にして、SMaSH IPAにしようというアイデアを小川さんが出してくれました。
小川:ホップにSimcoeを使いたいという意見が出て、試してみたい使用案も色々出たので、SMaSHにしたらシンプルで結果が分かりやすいのではないか?という話になって。ちょっとした実験のような気持ちでこのスタイルに決めました。
佐久間:そこからWest Coast IPAの酵母を使うこともすぐに決まりましたよね。
小川:前からBRY-97という酵母を使いたくて、その特性を活かすにもぴったりだったんです。
※「AWAKENESS」、味わいや醸造過程の詳細はこちら。
ーー醸造過程で、3人で意見が食い違うことはなかったんですか?
小川:各々が科学的な知見に基づいてやってみたいことを提案していったので全くぶつからなかったですね。むしろ、お互いが考えていなかったことを補うようなつくりができたと思います。
佐久間:それぞれエビデンスがしっかりあり、自分では思いつかないことで、賛同できる意見が多かったです。僕が出したアイデアについてもポジティブに受け止めてもらえましたし。ビールをより良いものにするという目的意識を共有できていたからかもしれません。
金子:僕も同じ意見です。たとえば自分にはなかった水質調整の知識や、ホップ投入タイミングも、2人の意見が勉強になりました!
ーーちなみに横で見ていた浪岡さんはどんな印象でしたか?
浪岡:これまでにブルワー発案はありましたが、ここまで手を放したのははじめて。でも最初にレシピを見たとき、びっくりしました。なぜなら僕が次のペールエールでやろうと思っていた構成とほぼ同じだったので。使ってみたい理由も同じで、僕はレシピを変えざるを得なくなりました(笑)。
でもその過程においては、僕なら普段選ばない酵母を用いたり、ホップを麦芽の糖化工程や酵母の添加するタイミングで入れていたりして、新鮮でした。適宜相談は受けていましたが、3人が決めることにはほぼ口出しはしてません。発酵の過程を、みんながわが子のような気持ちで向き合っていた姿が印象的でした。みんな、この気持ちを今後のビール造りでも忘れないでね。
ーーアシスタントブルワーの3人は、醸造を終えてみて、どうですか?
金子:僕は他の2人に比べると醸造歴も短く、年齢も下なため、他の2人に助けられたり勉強になる部分が多かったです。でも完全に頼りっきりではなくて、自分のやりたいことについて根拠を提示したうえで2人から受け入れられた時はとても嬉しく楽しかったです。
佐久間:仕込むまではドキドキしましたが、翌日からホップの香りが工場に漂っていたので一安心しましたね。その後、バイオトランスフォーメーションによって少しずつ香りが変わっていったのがおもしろかったです。毎日、香りは変化していったものの、いいビールに仕上がるのではないかという予感がありました。
小川:香りが変化する過程がとても楽しく、狙っていた香りが出てきたときはみんなで「おっ」となりました。反面、(香りが)飛んでしまわないかというドキドキもかなりあって。一方で大変だったのは、名前決め…最後まで難航しましたね。
金子:先日イベントの場で、お客様から目の前で「美味しい」と言ってもらえたことが何よりも嬉しかったです。
ーー浪岡さんは実際に仕上がった「AWAKENESS」を飲んでみて、どうですか?
浪岡:これまでの奈良醸造らしくない手法を用いながらも、でもこのそこはかとなく漂う奈良醸造っぽさはなんだろう…?と思いましたね。この一杯は、みんなが成長した証。代表作として自信をもって、どんどん売っていってください!
ーーーありがとうございました!&ブルワーの皆さん、お疲れさまでした!
アシスタントブルワー3人の努力と工夫の詰まった「AWAKENESS」。奈良醸造へ新しい風をもたらし、次へと飛び立つ一杯となりました。
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