今回は、お酒には欠かすことのできない『酵母』についてです。
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酵母の役割は、ずばりアルコールを産生するところにあります。日本酒、ビールに限らず、世界中のお酒に共通することは、酵母の役割で糖分をアルコールに分解させているところにあります。『酵母』とひとくくりに言っても、多種多様。ビール酵母は高分子の糖を発酵する力が強かったり、清酒酵母はアルコール度数に耐える力が強かったり、ワイン酵母は他の野生酵母が繁殖しないように制菌活性を持っていたり、とそれぞれにお酒によって酵母は使い分けられてきました。
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今回使ったのは、油長酒造で独自に持っている『7号系酵母』。この酵母の特徴は、強力な発酵力。発酵の過程で豊富な有機酸を生み出すこの酵母は、長期低温発酵条件下で様々な香気成分を持つ複合香を形成し、これが『風の森』の果実感あふれる酸味と香りの個性に繋がっています。
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これをビールに使おう、というわけです。
そこで今回行った工夫は3点。どれもが、奈良醸造のビール造りでは初めてとなる、いわば挑戦になります。
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1つ目はホップを使わないこと。
ホップはビールに特有の苦味と香りを付与し、ビールをビールたらしめる役割を持っています。今回、酵母が醸し出す香りを前面に押し出すために、あえてホップを使わないという引き算をすることにしました。ホップにはもともと防腐作用があることから、ホップを使わないということは、雑菌混入と汚染のリスクが高くなります。このため、いつも以上に衛生管理に注意を払い、神経を尖らせながら醸造を行うことになりました。
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2つ目は米麹を使うこと。
日本酒造りにおける米麹の大きな役割は、麹に含まれる酵素の力で原料のお米のデンプンを糖分に変えることにあります。少し専門的な話になりますが、ビール酵母は清酒酵母に比べて、大きな分子の糖も発酵する力を持っています。ビールの発酵に使われる麦汁は、米麹がデンプンを糖分に分解した際に造られる糖よりも大きな分子が多く含まれているため、清酒酵母で発酵させようとするとそのままでは発酵が進まない恐れがあります。このため、米麹の力を借りて、麦汁の中に含まれる糖分を清酒酵母でも分解できるようにしました。今回使った米麹は、風の森好適米『秋津穂』から作られた麹で、実際『風の森』に使われている米麹を分けていただき使用しています。
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3つ目は長期低温発酵。
通常、ビールの発酵は20度前後、1週間から10日程度で終了となります。それを今回は8度でおよそ30日と、3倍の期間をかけてじっくりと発酵させました。低温発酵を可能にしたのは、マグネシウムが豊富な『仕込水』と、発酵力の強い『7号系酵母』があってのこと。低温発酵をさせることで、高温で発酵させた際に揮発してしまう吟醸香を閉じ込めることに成功しました。ちなみに、もし普段奈良醸造で使っているビール酵母をこの温度で発酵させたとしたらどうなるか?温度が低過ぎて酵母が活動を止めてしまうほどの温度です。
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次回は、いよいよ大詰め。
出来上がったお酒について、お話をしたいと思います。