先日リリースしたアメリカンIPA「DOT(ドット)」。Webサイトでは、このビールを特徴づける要素として、Zappaをはじめとするホップの組み合わせについて紹介していますが、今日は「DOT」のもうひとつの重要な要素、酵母に焦点を当てたお話をご紹介します。
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ビール、なかでもIPAの個性を決める要素として、一般的にはホップの選択や組み合わせに注目が集まりがちですが、酵母もビールの香りや味わいを大きく左右する重要なファクター。というのも、酵母がなければ麦汁は甘い液体のまま。酵母が麦汁中の糖分を発酵することでアルコールが生み出されるのですが、その過程で酵母はそれぞれ特有の香りを生み出します。この香りがビールをビールらしくする要素で、今回「DOT」では、ノルウェー由来のKveik(クヴェイク)酵母を使用しました。
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Kveik酵母は、ノルウェーの伝統的な酵母。ビール造りの歴史は古く、ヨーロッパ各地では地域ごとに独自の発酵文化が発展してきましたが、Kveikは特にノルウェー西部の農家が自家醸造で何世代にもわたって長年使い続けてきたもの。独特なのはその保存方法で、Kveikは液体ではなく乾燥した状態で保管され、次の仕込み時に水で戻して使用するという方法が取られていました。
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しかし20世紀以降、管理のしやすい培養酵母が広まり、こうした伝統的な農家酵母の文化は徐々に失われていきました。しかし、クラフトビールのムーブメントが進むにつれて、こうした地域固有の酵母が再発見され、科学的に解析されるようになったのです。Kveikもその過程で再評価され、約3〜4年前から商業的なビール醸造にも取り入れられるようになりました。
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Kveikの最大の特徴は、通常のエール酵母が苦手とする高温発酵に耐えられるという点。
一般的なエール酵母は18〜22℃程度で発酵しますが、Kveikは40℃近い高温でも活発に働きます(通常のエール酵母をこの温度で発酵させようとしたら、死滅するか、そうでなくとも飲めたものじゃない液体が出来上がってしまいます)。このため発酵が速く進み、通常1~2週間を要するアルコール発酵が数日で完了します。この醸造期間の短縮という利点に加え、特徴的なフレーバーやアロマを加えることができるのも特徴です。
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「DOT」では、このKveik酵母が生み出す和柑橘のような優しい香りを活かし、アメリカ産ホップの柑橘系の香りと調和させ、多層的な香りに仕上げています。ノルウェーのKveik酵母、アメリカのホップ、ドイツの麦芽という、大陸をまたいだ原材料の構成によってIPAが仕上がっている、というのも現在のクラフトビールならではのこと。
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Kveikのような伝統的な酵母を使うことで、IPAの表現の幅がさらに拡がることを実感しています。これからも新たな組み合わせに挑戦し、IPAのさらなる可能性を探っていきたいと思います。
次の一杯もお楽しみに。