先週リリースとなった、奈良醸造のAmerican IPA「TRISTESSE(トリステス)」。
おかげさまで好評いただけており、ほっと胸を撫でおろしているところです。
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一見読みにくくもあるこのビール名、なぜこんな名前になったのだろう?デザインに使われている鍵盤はどういった意味が?と、不思議に思われた方もいらっしゃると思います。そこで、今回はその裏話をしてみます。
話は2020年2月まで遡ります。
その当時「TIME LEAP」という名前でAmerican IPAをリリースしました。
この年は本来であればオリンピックイヤー。うるう年(Leap Year)ということで、それにかけた言葉にしたい、そこで、僕たちが好きなSci-Fiっぽいニュアンスを込めて、「TIME LEAP」としました。ちなみにタイムリープとは、タイムトラベルの概念のひとつなのですが、詳しくは調べてみてください。
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このビールにあてられたデザインは、大林宣彦監督の映画「時をかける少女」でタイムリープするきっかけとなるラベンダーの花がモチーフになっており、誰か気づいてくれたら嬉しいなあ、くらいに思っていました。
その後、時は流れて2021年4月。
このときにリリースするAmerican IPAの名前をどうしようか考えていたところ、そういえば前回「時をかける少女」オマージュで名前をつけたので、そのまま大林宣彦監督の「尾道三部作」シリーズで名前を付けてみよう、と考え至ることになりました。ちょうど新入学の季節でもあるので、「転校生」にちなんで「TRANSFER GIRL」とし、男性のシルエットにはピンクを、女性のシルエットにはブルーを使いステレオタイプなジェンダーの入れ替わりをモチーフにしたグラフィックをデザイナーさんに描いていただきました。
そして今回、2021年11月。
またしてもAmerican IPAの名前を考えていたところ(他のビアスタイルに比べてこのスタイルのビールを作る頻度が高いため、悩むことも多いのです)、これまでの「TIME LEAP」「TRANSFER GIRL」に通じる繊細なIPAに仕上がったこともあり、これで「尾道三部作」シリーズを締めくくろう!ということにしました。
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大林宣彦監督の尾道をテーマにした映画「尾道三部作」。そのラストを飾るのは「さびしんぼう」。ここでとても悩みました。この映画を見た人は分かると思うのですが、この「さびしんぼう」を英語にするのはとても難しい。たとえば、これをシンプルに「LONELY GIRL」としてしまっては、こぼれ落ちてしまうものが多すぎるのです。
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なので、別のアプローチを試みました。
この映画のテーマとして何度も登場する、ショパンのピアノ練習曲10-3、「別れの曲」。
しかし、これも「FAREWELL SONG」としてしまうと、ちょっと意味合いが強すぎて、奈良醸造に何かあった?と心配されそうな気もしたので却下。
最終的には、この「別れの曲」は海外では「TRISTESSE(トリステス)」という名前であることを知り、あまり耳馴染みのない言葉ではありますが、これに決定しました。
肌寒くなってきたこの季節、ショパンの「別れの曲」を口ずさみながら(ピアノ曲ですが)、このTRISTESSEを飲むと、ちょっぴり切ない気持ちになり、結果的にですが、とてもよい名付けになったのではないかと思います。映画「さびしんぼう」も何とも言えずノスタルジックな作品なので、未見の方は秋の夜長に是非。