読書に合わせたいビールを醸造する「ALE & BOOKS & CIDER」企画。その特別編として、2025年11月30日に南翔太さんと奈良醸造の醸造長・浪岡によるトークイベントを開催しました。
南翔太さんは、2025年10月に奈良醸造がポニーキャニオンと共同主催で企画したイベント「会う、飲む、笑う、」にもご出演いただきました。その際に読書好きだとお伺いしたことがきっかけで今回のトークイベントが実現しました。
トークテーマは「人生に影響を与えた本」。ビールを片手に、それぞれの本にまつわるエピソードをお話します。

本に合うビール「KABEL」で乾杯
まずは、会場のお客さんも一緒にビールで乾杯。ビールは、「ALE&BOOKS&CIDER」企画から生まれたオクトーバーフェスト「KABEL(カベル)」を。
浪岡「カベルという名前はフォントの名前から取っています。毎年この企画ではいろんなフォントからビールの名前を取っていて、2025年はこちら。温度が上がっても飲めるような、本をゆっくり読みながら傍らで飲んでいただけるビールです。麦の味がしっかりしていて、人によってハチミツやトーストしたパンみたいな風味を感じていただけると思います」
南「確かにぬるくなっても美味しいですね」
浪岡「むしろちょっと温度を上げながら飲んでいただきたいぐらいに思ってます」
前回のイベント「会う、飲む、笑う、」で出会ったお二人。その後、南さんは浪岡の自宅に泊まったことがあるそうで――。
南「奈良で飲みに行って終電が過ぎて、お家に泊まらせてもらったんですよ」
浪岡「南さん、さすが居候力が高かったですね(笑)」

村上春樹のリズム、中村文則の表現
南さんが1冊目に紹介する本は、村上春樹の『海辺のカフカ』。上京前に読んだ思い出の本で、ずっとカバンに入れて持ち歩いていたとか。
南「この本を読んだ後も常に人に渡す用として持ち歩いていました。十五歳の少年が家出する話なんですけど、全体で見たら正直意味わかんないんですよ。でも後々思い出してみたら全部つながってるような気がする」
浪岡「村上春樹っぽいですね。伏線張りまくりの思わせぶりというか」
南「でも僕が一番好きなのは文体で。五・七・五・七・七みたいなリズムがずっと続く感じ。畳みかけるところの文字数が大体一定になるんですよ。この人、元々ジャズバー出身なんですよね。そのリズム感が文章に入ってる気がして」
続いて南さんが選んだのは中村文則『銃』。大学生が死体の傍に落ちていた銃を拾うところから始まる物語です。
南「著者のデビュー作なんですけど、まだ自分のスタイルが確立してない状態で書いてるから、脳内をまるまる見てるような感覚がある。で、銃を持った時の表現が『こんなに持ちやすいものを知らない』って書いているんです」
浪岡「確かに持ちやすいものって、普通カバンとかしか思いつかないですよね」
南「でも僕、実は銃を持ったことがあるんですよ」
浪岡「……関係ない顔しといた方がいいですかね」
南「モデルガンですよ!でも確かに持ちやすいんですよ、めちゃくちゃ。でも実際にこう表現するってすごいですよね。だから印象に残ってます」

1万3000年の歴史の歩みを本に
浪岡が選んだのはジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』。奇しくも、同じ銃というワードがタイトルに入っていました。
浪岡「1万3000年前、氷河期が終わった時、人類はみんな同じ暮らしをしていたはず。そこからなぜこんなに差が出たのか。なぜコロンブスがアメリカに行ったのであって、逆にアメリカの人がヨーロッパに攻めてこなかったのか。それをいろんな事実を積み上げて説明している本です」
南「川が文明の近くに絶対あるみたいな話も出てきます?」
浪岡「それ、実は嘘に近いというか。アメリカは別に川と関係なく成立してる文明もあるよね、という話も出てきます」
南「そうなんだ。すごい、めっちゃいいパスしましたね俺。面白そう…これほんまに読みます」
次に浪岡が紹介したのは開高健『パニック・裸の王様』。本を読むことが好きになったきっかけの一冊だと言います。
浪岡「お笑いでも緊張と緩和はあるかもしれませんが、それが小説でもうまく表現されていて、前半の振りがものすごくあった後に、最後に気持ちいいオチが来る。小説の面白さがギュッと詰まってる本。それまでは親から与えられた本ばかりで、文章を読むのは面白くないなと思っていたんですよ。でも中学の時にこれを読んで目覚めた」
開高健は元サントリーのコピーライターで、言葉のセンスが小説にも活きているとのこと。南さんもぱらぱらとめくって「読みにくくないですね、この時代の本にしては」と興味を示していました。

又吉さんとの出会い
続いて南さんが又吉直樹『人間』を紹介。この本を選んだ理由には、思わぬ遭遇がありました。
南「バーでたまたまこの本を読んでいたら、隣に又吉さんがいたんですよ。髭モジャのスタイルで、入った時点で『やばい店来てもうた、すごい常連おる』ってなってて。後から又吉さんだとわかりました」
作中には、「影島」という芸人が登場する場面があります。南さんは又吉さんと話した際にある間違いを犯してしまったとか。
南「『影山』って言っちゃったんですよ。名前『影島』なのに。0.2秒後にはもう『やってもうた』ってなってて。でも又吉さんは『そうやね』って言ってくれて。バレへんかったと思ったんですけど、5回目くらいに会った時に『今だから言えるけど、あの時、名前を間違えていたんです』って話したら『影山やろ』って。しっかり覚えられてました」

詩が表す、人間の躍動
次に浪岡が詩集を2冊紹介。谷川俊太郎『これが私の優しさです』と田村隆一『腐敗性物質』です。
浪岡「谷川俊太郎の詩集は僕も一時期ずっとカバンに入れてました。ボロボロになってやめたんですけど。20代の頃、悩んでいる時にこの本で救われた。折に触れてどこか開くと、答えではないけれど、救われる言葉が書いてある。一言で言うと人間の優しさが詰まっている本。持ち歩かなくなったのは、多分それを抜けられたからですね」
南「20代の時にそういう本があるっていいですね。僕の中では神様みたいな人です」
もう1冊の田村隆一は、谷川俊太郎とは対照的な存在として紹介されます。
浪岡「こっちは言葉のかっこよさを極限まで突き詰めてる。読むと文体が持っていかれるんですよ。ミュージシャンで言ったら桑田佳祐と共演するとみんなあの歌い方になっちゃうぐらいに」
南「何かおすすめのフレーズとかあります?」
浪岡「『我々には我々を癒すべき毒がない』とか。こういうアンビバレンツな表現をさらっと書く」
南「確かにかっこいいですね。なんか宇宙人みたいですけど」
浪岡「自分もビールの味を表現する仕事なんで、ついこんなわかりにくい言葉を使いそうになっちゃう」
なお田村隆一は酒に愛された詩人として知られ、ウイスキーの飲みすぎで亡くなったとのこと。
南「酒はよくないですね、と言おうとしたんですけど、醸造長の手前言えないですよね」
浪岡「……でもこのビールはですね、アルコール度数・6.0%ですから」
南「下手ですよ。宣伝(笑)」

昨日読み終えた本、持ち込み
トーク終盤、南さんが「昨日読み終えたばかりで、おもしろすぎて急遽紹介したい」と飛び入りで持ち込んだのが糸山明子『逃亡くそたわけ』。双極性障害の女性が閉鎖病棟から脱走し、車で鹿児島の端を目指す物語です。
南「脱走する話って聞くと、捕まりそうになったりギリギリくぐり抜けたりっていうスリルを想像するんですけど、そういうシーンが一個もない。心理描写がすごくて。僕自身もそういうところがあるんですけど、この人の描写の解像度が高すぎて。調べたらやっぱりこの人も同じだった。だからこそ書けてるんだと思う」
浪岡「自分のことを書いてるんじゃないかっていう小説に出会う瞬間ってありますよね。それが南さんにとっては、つい先日出てきたと」
南「死にたいと思ったことは人生で一度もないんですよ。でも『遠くに行きたい』というのはめちゃくちゃわかる。みんなが死にたいって思うことって、こういうことなのかなって。それをこの本で初めて言語化してもらえた感覚がありました」

おわりに
お互いの選書は一冊も被らず、小説、詩集、ノンフィクションとジャンルも多彩。それでいて「銃」が偶然重なったり、「カバンに入れて持ち歩く」という読書スタイルが共通していたり(ちなみに、その日履いていた靴下も同じ奈良醸造グッズの靴下だったという偶然も!)。本を通じてお二人の人柄や共鳴する部分が自然と浮かび上がるトークでした。
本にまつわるいろんな記憶や感情を、ゆっくり温度の上がるKABELとともに味わった1時間。「ALE & BOOKS & CIDER」の名にふさわしい時間となりました。
「KABEL」は現在、オンラインストアでも販売中です。

南翔太:YouTube「ニートと居候とたかさき」に出演するほか、お笑いメディア「ワラパー」でエッセイ連載を持つ。過去に「オドるキネマ」というコンビを組んでいた。
浪岡安則:奈良醸造の代表取締役 兼 醸造長。ビール好きが高じて公務員からビール醸造の道へ。昔から読書が好きだが、最近は仕事関係の本を読む割合が増えていることが悩み。
写真:堀越愛








